九月一日。初秋を迎えた金沢浅野川界隈は、暦の移り変わりと共に残暑から初秋へ早変わりして、やや肌寒い朝を迎えていた。うっすりと朝もやが掛かる早朝の浅野川畔では、川面を眺め佇んだり、ウォーキングを行ったり、ペットと散歩を楽しむ人々が、浅野川を背景に柔らかな光景を見せていた。
 早朝のジョギングを終えバスルームで汗を流したMは、純白のバスローブを身にまとい、搾りたてのトマトジュースを口に含んでソファに身を沈めた。

「・・・あら、そうそう!」

 今日は9月1日。カレンダーを8月から9月へめくり変えなければならない。日当たりの良いリビングの壁には冷えた朝日の光線が差し、部屋全体を熱帯魚の水槽のような落ち着きで包んでいた。その部屋へ入ると真っ先に目に入るであろう壁の中央部には、愛猫家の間でひそかなブームとなっている「はじめの一歩☆」というタイトルの子猫シリーズ型カレンダーが掛けられていた。そのカレンダーには、愛らしい子猫たちの姿が撮影された写真が月ごとに掲載されている。
 たった今、Mがめくり取った先月分のカレンダーには、愛らしい三匹の日本猫の子猫たちが、安心しきった表情で母猫の懐にうずくまって眠るベストショットが掲載されていた。Mは慣れた手つきでその写真部分をハサミで切り取り、朝日に透かしてうっとりと眺めていた。

「・・・カランッ」

 トマトジュースに浸かっていた氷が恍惚の時間を遮った。恨めしそうに振り返ったMの表情に押されたのか、詫びを入れるように再び「カランッ」と氷が動いた。Mは機嫌を直して、いつも通り書斎の本棚からコレクションファイルを持ち出し、先々月の子猫の写真と背中合わせとなるようにファイリングをした。「これで良い、これで良いのだ、誰に理解を求める事もない私のコレクション。私の不滅のコレクション!」Mは満足の海域を自由に遊泳する喜びを全身で感じていた。

 こうして月初めの儀式を無事終えたMは、日なたで眠りこけている愛猫ミャー子にモーニングキスを見舞って、安眠を妨げられたミャー子の恨めしい視線を見届けて朗読小屋へ向かった。


             ◇


 朗読小屋では、愛する鈴虫兄弟たちがMの訪れを待ちわびていた。昨夜与えた茄子の串刺しに、ワンパク盛りのミハエルとサミュエルとロドリゲスとダルビッシュとが最後の残り香と甘味を求めてしがみついていた。

「ゲットモーニング!」

 直訳すれば、朝を獲れ!だ。困惑する兄弟をよそに、Mは虫カゴの蓋を空けて、昨夜のうちに準備しておいた胡瓜の串刺しを虫カゴの中に設置して、鈴虫兄弟が胡瓜へ移動するのを確認してから干からびた茄子を取り除いた。

「はあい、良い子たちねぇ、朝食のお味はいかがあ?」
 Mには動物と会話する能力があった。
「リリーンッ」
 お喋り好きなサミュエルがMに答えた。
「ああらそう、よかったわあ。その胡瓜はねえ、ご近所の小林さんの所で買ってきたのよ。」
「リン、リン、リン。」
「そう、良かったわあ。お母さんはね、貴方達の元気な声を聞くと元気一杯になるのよ。」
「リン、リン、リリーンッ!」

 今日は秋公演初日。ついにこの日がやって来た。年2回の定期公演、土日劇場、移動劇場と、激動の半年を駆け抜けた浅野川倶楽部の部員たちは、金沢の文化へ貢献して、着々とその実力を示していた。Mは、益々凛々しくなる部員の姿に、胸を打たれ、居酒屋で涙することが多々あった。普段は蚊が鳴くような小さな声で話す慎ましい女性なのだが、お酒が入ると超合金のロボットのようにテキパキと雄弁を振るうのだ。部員たちはそんなMが好きだった。


             ◇


 ある晴れた日曜日、Mは事務員Nを誘い、朗読小屋階下のダイニングレストラン「ノゥ・スモーク・アントワネット」でランチ会議を開くことにした。気忙しい一日を過ごしていると、ゆとりの時間を失うことがある。そんな時Mは、強制的に身の置き場を変えて一息入れるようにしていた。店内には、アントワネットのマスターが選曲したジャズが終日流れ、現代から一線を画しているモダンな雰囲気で満ちているのだった。
 Mは前菜を口へ運びながら、Nへ任せている秋公演上演作品の著作権利用申請手続き状況を確認して、その苦心の程と愚痴をなだめる一方で、数日前から考えていたある一大決心に思いを巡らせていた。

「お待たせ致しました。ご注文の神戸牛ステーキです。」

 評判の美人ウエイトレスがテーブルの上へ皿を並べる。Nは緊張した面持ちをしていた。握り絞めたナイフが滑り落ちるのではないかと思うほど両手に汗をかいていた。どうやらNはこのウエイトレスを前にしてドキドキしているに違いない。以外とNはうぶな男だな。Mは長年の経験から推測してみた。

「・・・食べてもいいかな。」

 推測はハズレた。先程からのNの緊張した面持ちは、目の前で給仕を行っている美人ウエイトレスを意識したものではなく、遥か遠く神戸から運ばれて来た和牛様へ表した敬意から来るものであったのだ。

「・・・召し上がれ。」

 戸惑いの色を直ぐさま隠して、MはやっとNに飲食許可を出した。そうであった。Nは品の良い欠食児童であった。澄ました顔で他人の食べ残しまで平らげるブルドーザー。Nが真剣な眼差しで神戸牛ステーキにナイフを入れようとしたその瞬間、

「待って!」

 Mの硬質な声がNを静止させた。Nの瞳は執念に燃えていた。その執念に勝るとも劣らない瞳で、Mは先程まで考え続けていた一大決心の内容を披露する事にした。

「蛇の生殺しという言葉は、こういう時にも使えるようです。」

 日頃から、飲食代金を支払う者には決して刃向かわないよう心掛けているNであったが、この時ばかりは慎重に言葉を選び、小さく刃向かった。Mは無視して続けた。

「私、秋公演で全演出と音響照明スタッフをやってみるわ!」
「えええっ!!!」
「大丈夫よ、やってみせるわ!」

 ミディアムで焼かれ、甘い香りを放つ高級ステーキ。Nには時間が無かった。そんな大切な話をこんなタイミングで発表するなんて狡いぞとでも言うかのように、Nの目元は引きつっていた。確信犯なのか偶然なのかMの決断はいつも唐突だ。Nは頭を抱えるようにして「冷静に冷静に」と自分に言い聞かせた。全演出ならともかく、音響照明スタッフをやるには相当の訓練が必要だ。リビングの電気を点けたり消したりするような安易なものではない。音響もそうだ。Mはどういうつもりなんだ。日本男子は言うべき時は言わなければならない!

「仰せの通りに致します。」

 Nはミディアムを取った。

「じゃあ、私、初心者だから機器の操作方法を教えてね。それと、私が舞台進行役をやるから、貴方は役者で出なさい、出演日あげるから。」
「頂きます!」

 Nにとって、もう仕事の話はどうでもよかった。Nは獣のように牛にむしゃぶりつき、憧れの高級神戸和牛と、知らぬ間に自身の出演日を獲得した。

「んじゃ、頑張ってね!」
「わお〜ん!」

 こうして苦難の秋公演準備がスタートしたのであった。


             ◇


 私は挑戦しなければならない。皆に目標とされる指導者にならなければならない。多くの観客を魅了し続ける女優であり続けなければならない。Mは焦りを感じてひたすら自身を追い詰めていたのだ。女優歴40年。もう何も失うものは無い。華やかなスポットライトを浴び続けた40年は、Mにとって栄光の日々であり、果てしなく長い茨の道でもあった。一つの目的を達する為に邁進することは多大な犠牲を要する。しかしMはひたすら突き進んだ。立ちはだかる壁を幾度も乗り越え、あらゆる事にチャレンジして来た。訓練を重ねて、ついに腰を降ろすことになった秋公演初日の音響照明オペレーター席も、着々とその手に落ちて行こうとしていた・・・のだが・・・。

「皆さん、おはようございます!今日は宜しくお願いします!」

 集合した女優達を励ますようにMは声を張り上げた。

「宜しくお願いします。」

 Mは想定外の女優達の落ち着いた声に身震いをした。今日は自身の音響照明オペレーターデビューの日で、本当は周囲を気遣う余裕もないくらい、公演本番へ向けて心拍数が異常に上がって息苦しさを感じていた。

「平常心・・・平常心・・・。」Mは呪文を唱えた。

 照明と音響の場当たりと公演前のリハーサルでは、助手のNを傍らに待機させることにした。そして張り詰めた心持ちで操作席に自身を固定した。頭の中では、幕開けからカーテンコールまでの照明と音響機器の操作手順が、メリーゴーランドのようにぐるぐる回っている。馬車に乗って微笑みかけるシンデレラの目が自分を嘲笑っているかのように見える。呪文の効果が薄れて、操作画面を見る目もうつろになってきたMは、Nが差し出した冷水を一気に飲み干した。

「ああぁ、ううぃ。・・・もう一杯。」

 岩魚の骨酒を飲む時のような飲みっぷりだ。

「大丈夫でござるか?」Nは古風な男であった。
「心臓ドキドキや・・・もう一杯。」
「かしこまってござる。」
「はよ行き!」
「へい、ただ今!やるまいぞ、やるまいぞ・・・。」

 やがてNが汲んで来た冷水を引っつかむと、栄養ドリンクのコマーシャルのように、岩肌にしがみつく自分の姿をイメージして発声した。

「ファイト一発!」冷水は一瞬のうちに消えた。

 幕は開いた。もう逃げも隠れも出来ない。Mは負けず嫌いな女であった。震える手を押さえて平静を装ったが、手の平は汗で滲み、ボタン操作の際は手を滑らせ誤作動させてしまいそうだった。客席の明かりをフェードアウトして行く。20秒かけてじっくりと室内が暗くなり、薄明かりの舞台に出演者が現れた。


音響・照明操作手順(一部)

中原中也作「中原中也詩集」より
「汚れつちまつた悲しみに・・・」
    ↓
加能作次郎作「母」
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「汚れつちまつた悲しみに、今日も小雪の降りかかる。汚れつちまつた悲しみに、今日も風さえ吹きすぎる・・・(中略)・・・汚れつちまつた悲しみに、いたいたしくも怖気づき。汚れつちまつた悲しみに、なすところもなく日は暮れる。」

@ SEピアノ音 CUT-IN → FADE-OUT

A 転換

B 照明シルエットブルー(86)へ切り替え

C 黒子 譜面台を設置

D SEエンマコオロギ FADE-IN → F・O

E 出演者 舞台へ上がる

F 照明 出演者と息を合わせライトイン(短篇明かり) F・I

「母が死んでから半年余りになる。此頃になって、頻り(しきり)にその母の面影が懐しく偲ばれる・・・母は私には第二の母だった。第一の母即ち実母は、私の生後七八ヶ月で、急病で死んだのだそうで、それからどれだけの間を置いて・・・。」

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 Mは夢中だった。全身が緊張で硬直していた。最後の出演者の舞台が無事終わり、暗転からカーテンコールへ照明を変化させると、打ち合わせ通り、舞台上の出演者がお客様へご挨拶を行う。よし、あともう少しだ、もうじき終わる。全身が汗でびっしょりとなっていたMは、挨拶を終えて舞台を降りる出演者を確認して、客電のフェードインを開始して音響操作を行った。客席では口上係が終演後のご挨拶してお客様を送り出す。

 舞台は熱演に支えられ無事終えることが出来た。お客様を送り出した後、Mは出演者たちにお花をプレゼントして、各々の熱演をねぎらった。思い起こせば、今春の公演では地震と選挙カーの大声に悩まされた。「そうだった、いろいろあったな。」Mは感慨深げに椅子に腰掛けた。

「お疲れ様で御座いました。」

 Nの声にふと我にかえったMは、猫柄のタバコケースから一本取り出し、おもむろに口にくわえた。

「小屋内は禁煙でござる。」
「分かってるわよ!」
「・・・。」

 Mはカバンを担ぎ、玄関の階段を駆け降りた。カバンは医者から処方された薬を溜め込んでいる為にパンパンに膨れていた。その後姿は仕事を終えた常備薬営業マンのようだった。Mは、小屋裏を流れる用水を見下ろしてタバコに火をつけた。秋風に舞うタバコの煙は深い用水の暗闇に吸い込まれて行く。Mの背中は哀愁を感じさせた。そして未練の表情を浮かべながら携帯灰皿へ吸い殻を詰め込んだMは、天へ向けた天使の唇から高々と煙を吐き出して、まるで蒸気機関車のように焼鳥小吉へ向かって行った。

「ポッポーッ!」

 芸術の秋と食欲の秋・・・秋は彩りの多い季節だ。


             ◇


 初日以降も、Mは音響照明の機器操作を行った。そして公演回数分の胸のドキドキ感とプレッシャーに襲われていた。

「平常心、平常心・・・。」

 唱えれば唱えるほど気持ちが高ぶってくる。

「いかん、いかん。」

 その様子を見守っていたNは、けだるい調子でMに声を掛けた。

「平常心、平常心、家電買うなら?!」
「・・・へい、じょーしん。」

 失笑と共に呪文は効いた。

「よし!」
「頑張ってくだされ。」
「かしこまってござる。」

 Mは落ち着きを取り戻し公演は開幕した。舞台の世界に生きる者は、公演の事を「本番」と呼んでいる。秋公演は1ヶ月という長期間に渡って開催された。多演目を上演する公演の場合、公演の性質上、自ずとこのような形態を取らねばならない。そしてその期間は、有志部員たちが公演スタッフとして公演をサポートして行く。自分が関わる公演だからこそ、スタッフとしても協力する。

「・・・かたじけない。」

 Mは改めて皆へ感謝の意を表した。


 
 こうして、長期に渡る2007年の秋公演は、部員同士が切磋琢磨して文学的クオリティを高め、盛会の内に閉幕することとなった。Mは見事に重責を果たした。Nは最終公演後の後片付けと、打ち上げの準備をしながら、Mの偉業を無言で讃えていた。

 朗読小屋には集合時間16時を目掛けて部員が続々と到着していた。Mはやっと肩の荷を下ろして、息つく間もなく乾杯の音頭を取った。

「皆さん!本当にお疲れ様でしたぁ!かんぱ〜い!!!」
「かんぱ〜い!」
「かんぱ〜い!」
「かんぱ〜い!」

「いえ〜い!パチパチ、パチパチ!」
「よ〜し、今夜は乱れるわよ〜!」
「先生ったら、いや〜ん!!」

 終演の歓喜に沸く打ち上げ会場は、部員の熱気で溢れていた。Mは、ビールグラスを片手にして、歓談の様子をデジタルカメラで撮影して廻るNを呼び止めた。

「Nちゃん。」
「ええ?」
「それにしても技術スタッフは大変な仕事だったんだね・・・あんたの気持ちが今ようやく分かったわ。」
「・・・!」

 Nは虚を突かれて、一瞬戸惑った表情を見せたが、投げかけられたこの殊勝な言葉に感動した。そうか、やっと分かって貰えたか・・・そうなんだ・・・スタッフは実際にやってみなければ何も理解出来ない、とことん従事してみなければ何も分からないのだ。それをMは悟ってくれたのだ。Nはこみ上げる涙を堪えながら、愛すべき部員たちの満面の笑顔を撮り続けた・・・。


             ◇


 いつまで、どこまで続くのだろう・・・果てるまで?・・・だとしたら、自分は、個人個人が生きる人生劇場の大事なヒトコマを担っていることを強く認識せねばならない。人の人生の中に自分の生きる場所があるのだ。
 Nの心に、地の底から吹き出すマグマのような熱く激しい情熱がこみ上げて来た。悲運を嘆く人生など捨て去り、そこに活路を見出だそう。人生の幸不幸は、平等不平等の差はあるにしても、神が人間に与える試練だ。今日は幸福で満たされていても、明日は不幸に包まれているかも知れないのだ。その幸不幸の波に乗って、人間は浮き沈みの航海を続けているのだ。

 前向きに生きることは素晴らしいことだと世に聞くが、マイナス要素を抱えて意気消沈している人にとって、そんな綺麗事に実現性など感じられないだろう。絶望の淵に過ごす人に「貴方が今、深い淵に潜んでいるのは、雲を貫き天高く昇る龍のように、ここぞという時を待っているのだと思って耐えなさい」と、無神経に言えるはずもない。幸福を求めればきりがない、不幸にならいつでもなれる。沈没しないよう舵取りを行っていれば、必ず幸福の波がやって来る。今、沈む波に乗っているならば、次は必ず浮く波に乗ることが出来るのだ。

 時に荒波、時に起伏の少ない波。平穏無事が一番の幸福であると感じる事もあれば、不幸と感じる事もある。何らかの外的作用により、人は人知れず、皮一枚隔てた内部で葛藤と苦悶をくり返している。人間の思考には「プラス思考」と「マイナス思考」とがある。ほぼ毎日、自分だけに与えられる数々の心の事件。自身は被害者であり同時に事件の捜査官でもある。何故こんな事件が起こってしまったのか、それを追求する為ジーパン刑事のように脳内を走り尽くす。そして犯人を壁際に追い込んだと思った途端に、壁を越えて犯人に逃げられるか、仲間を呼び出されて反撃されるか。捜査官である自身は、身を呈して闘うか、携帯電話で応援を呼ぶか、身の安全を第一に逃げ出すか。脳内事件はあまりに多すぎて、未解決事件として処理され、机の上は書類で山積みだ。

 毎日、自身だけに与えられる心の事件に対して、人は決着の有無に関わらず、極めて瞬時に判断して自身に答えを出しているのだ。事件が解決出来ない、答えが見つからないと。事件を解決するにはベテラン刑事並の経験が必要だ。まずは目の前に現れた小さな事件を解決することから始めなければ。これまで簡単に解決して来た小さな事件も振り返ってみよう。もしかすると冤罪だったりする。そしてその解決方法の正否に関わらず、合理的かつ効率的な解決方法であったか熟慮してみるのだ。同じ解決術を使っていては、日々現れる真犯人に欺かれ逃げられる可能性も高くなるのだ。

 常日頃より、マイナス思考60%、プラス思考40%で生きる人は、心の事件が発生した直後、無意識にマイナス思考を選んでしまう確率が高くなる。例え事件発生時に無理にプラス思考を選択したとしても、日頃からプラスのベースが無い為、長続きせず、結果無理をした反動でマイナス思考へ走ってしまう。だからこそ日頃からプラス思考の下地を作り上げていたいのだ。まずは、マイナス思考49%、プラス思考51%を目標にしたい。1円を笑う者は1円に泣き、1%を重んじる者は1%に笑うのだ。

 人は誰も皮一枚の内部で同じ葛藤に苦しんでいる。愛した人と結ばれなかったことを、生涯悔やんで生きているかも知れない。未解決の事件、時効となった事件、どれも苦悶と情熱に満ちていて、振り返れば経験という心の財産になっている。財産は皮一枚の体内の金庫に大切にしまっておきたい。
 大切な事は、今を懸命に生きることだ。感情世界に生きている私達は、感情に捕らわれ苦しむ事が多い。人間関係に苦しむ事も多い。自分を見失い、知らず知らず確率の高いマイナス思考を選択する。プラス思考を身につける為には、今流行の鈍感力をも身に付けなければならないのだ。

 大望と野望を抱き、幸福と理想、未来予想図を描き進んで行きたい。何でも良い。目的地が無ければ進む事も出来ない。何でも良い。大志を抱き世の中へ貢献する人物は、皆広い歩幅で進んで行くのだ。自身の暗闇など自身にしか知り得ない小宇宙。宇宙研究者に発見されるのをじっと待っているより、暗闇から這い出てはつらつと光っていた方が良い。光る星は暗闇を照らす。暗い小宇宙に住む多くの人々は、貴方の輝きに希望を見い出し、自分も輝こうと自身を磨いて輝き出すのだ。周囲の星が輝き出せば、貴方も更に輝きを増して行く。


             ◇


 Mは11月初旬に催される第四回泉鏡花フェスティバルの演劇公演「おりづる」(大谷護作、ふじたあさや演出)の舞台稽古に参加していた。「おりづる」は、泉鏡花原作「照葉狂言」を題材に創作された戯曲で、5年に一度公募される泉鏡花記念戯曲大賞の第3回の受賞作品であった。Mは光栄なことに小六(ころく)という役を仰せつかっており、演劇公演の稽古と、我が朗読小屋の秋公演とを巧みに両立していた。

 泉鏡花の原作では、小六は病で寝たきりとなり見世物小屋へ売られて行った「過去の人」として名前のみ登場するのだが、この「おりづる」では、座中を率いる女座長として登場する。女座長小六のMは、劇中劇の狂言で、女優には難しいと言われている弁慶の激しい立ち回りをしなければならなかった。なので、稽古開始当初は激しい稽古で足腰を痛め体を酷使していた。公演日前である為これ以上は言えないが、浅野川倶楽部から9名も出演する舞台なので、今はその勇姿が観られることを心待ちにしていようと
思う。


 
平成19年10月吉日
   
 
         
 
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制作 表川なおき
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