私達の朗読小屋は、金沢市北部と中央を結ぶ交通の要所「橋場町交差点」と、豪快に車が行き交う大通りに面して建っている。ダンプカーやバイク通過の際は排気の爆音が地響きを引き起こし、古小屋を支柱から震わせる。築100年以上と言われているから「建っている」と言うより「遺っている」と言うべきか。朗読小屋の立地環境に関しては、これまでのホームページ内で散々触れているから余り書かない。

 春公演の観客動員は皆の力と報道各社のご支援により盛況だった。公演スタッフは上演中のハプニングを想定して様々な策を練っていた。公演期間前半は救急車は少なかったが、期間終盤は遠近のサイレン音が一日一本は通った。季節は麗らかな春を迎えたけれど、病床に伏せる方は苦しんでおられる。一日も早くのご回復をお祈り致します。今年の春公演は途中入退場のお客様が多かった。上演時間と演目、そして舞台の質(?)に問題があったのか、理由は分からないが謙虚に受け止めなければならない。

 ただ、朗読文化の未開発の地で、朗読公演を行う厳しさでもあると言えよう。幸い金沢の地は「文学の町」として全国にその名を知られている。金沢三文豪泉鏡花、徳田秋聲、室生犀星を初め、数多くの作家を世に輩出している。地域に生活する私達県民市民、隣県の有志の声によって、語り継ぐ、語り伝えることはとても意義かあることだろう。黙っていては伝わらない。行動を起こさなければ分からない。

 話を戻し、上演中にお客様の携帯が鳴ったのは初日だけだった。途中入場のお客様の携帯電話だった。開場時は大声で携帯オフ運動を行うのだが、途中入場のお客様へはプラカードでその旨をお伝えする為、自然携帯オフ運動の威力が弱くなる。そのお客様の着メロは「パパからもらったクラ〜リネット♪」だった。半年の苦労を水の泡にしかねなかったが懐かしい曲に心が和んだ。「スーダラ節」だったら危うくツボに入ってしまうところだ。そんなことで、2008年春公演は華々しく開催されたのだった。

 今年の春公演には樋口一葉作品が加わった。尾崎紅葉門下時代の泉鏡花は、一葉の代表作「たけくらべ」に感動した。鏡花は一葉宅を訪問したこともあり、後の「薄紅梅」に一葉をモデルとした女性を登場させている。何故一葉作品を取り上げることとなったか、その理由はとても単純明快で、以前より所有していた樋口一葉作品を朗読収録した幸田弘子さんのCDに親しんでいた為、朗読の世界では超高度な一葉作品に挑戦しようと志したのが始まりであった。M女史からは「何故今一葉なの」と問われたが、熱く語り女史に賛同を求めた。女史は、僕が一度決めたら後には下がらない人間だと知っているので「じゃあやってみなさい」と了解してくれたのであった。

 さて、フィギュアスケーター浅田真央選手の話題へ変えたいと思う。2008年3月19日スウェーデンのイエーテボリで、世界フィギュアスケート世界選手権第2日女子ショートプログラムが行われた。初優勝を狙う浅田真央選手は今季自己ベスト64.10点で2位となった。浅田選手は、翌日のフリー演技序盤にトリプルアクセルを失敗して大転倒してしまった。試合開始前の練習では見事トリプルアクセルを成功させ観客を沸かせていたのだが、試合は何が起こるか解らないものだ。しかしシーズン最後の試合にかける浅田選手は転倒のショックを瞬時に切り替えた。

 腰を強打して太腿付け根に血がにじんだ。続く2連続3回転を成功させたが3回転ルッツはエッジの減点を受ける。2種類目の2連続3回転は回転不足。スピンで盛り返すことが出来たものの、技術点はカロリナ・コストナー(イタリア)を0.01点上回っただけで、キム・ヨナ(韓国)には3.93点も離されてしまった。その浅田選手を優勝に導いたのは演技点だった。今季開幕前にロシアでバレエを学んで培った表現力は、全5項目でコストナーとキム・ヨナを上回り、2点以上の差をつけ合計点で大逆転。海外勢と最終滑走の中野友加里の鳥肌の立つような好演を見送り、見事金メダルを獲得した。

 序盤のトリプルアクセル大転倒により、浅田選手のショートとフリーの総合得点は185.56点、2位となったコストナーは184.68点。 トリプルアクセルが成功していれば浅田選手は190点以上を出して群を抜いていただろう。最大の武器トリプルアクセルの基礎点は7.50点だが、失敗により得点は0点、転倒で減点1点、合計マイナス8.50点を序盤から背負った。この失敗を悔やんで引きずったならば、次の失敗を呼び込むはもちろんのこと、全演技に精彩を欠くことになる。そうならない為に瞬時に気持ちを切り替え次の演技に集中した。浅田選手の強さは表現力と技術を支える天性の好転的メンタリティーにあろう。周囲のバッシングさえ力に変えられる。

 太陽系の惑星地球に生きる人間の生命は、何億光年の宇宙の歴史の中では、ヤカンの湯気のように沸いては消える蒸気のようなものだろう。人間の生と死。愛した憎んだも生と共に沸いて、死と共に消える。生きる為に食べるのか、食べる為に生きているのか。空前のダイエットブーム、スリムな方でさえ痩せようとする。何故太ってしまうのか、食べるから太るのか、太っているから食べてしまうのか。第一に健康維持の為にダイエットに取り組みたい。僕自身も「ぜい肉きついジーンズで認識」と某紙面で宣言した手前、肉体改造プロジェクトを実行しなければならない。

 とある劇団に若手演出家がいた。彼は学業終了後上京せず地元で力を蓄えていた。貯蓄は全て都会への芝居巡業に充てて、良い舞台は借金をして観に出掛けて行った。その後、彼は生涯の師を得て地域演劇活動を志すようになった。彼をひたすら情熱の道へ導いたものは恩師への忠義だった。地域文化とは、都会に比べての田舎の文化という意味ではなく、地域特有の風俗習慣は勿論のこと、全世界の全地域に生活する人々にとって無くてはならないものを指している。

 文化が奨励されていた加賀藩政時代、金沢の庭師までもが盛んに謡いを学ぶ様子をもって「金沢は空から謡いが降ってくる」と例えるほど、人々は競って謡いを学んでいた。金沢は奥行きのある文化土壌を持っている。朗読小屋に人が集まるのも文化の町金沢ならではだろう。設立当時は「立地を利用した商売小屋だ」と批判され傷つくこともあったが、文化水準の高いであろう土地に当然あるべき商売なのではないかと、今では誇りを持って言えるようにもなった。これもひとえに着いて来てくれた部員各位と、私達の活動に賛同して下さった方々のご支援の賜物であると、心より熱く御礼を申し上げたい。


 文化は一日にして成らず・・・

 
     
 
平成20年3月
表川なおき
 
 
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