朗読小屋 浅野川倶楽部 創立5周年記念公演 2010朗読で綴る北陸文学 〜じっくり聞きたい郷土の文学たち〜 作品解説 |
「あらくれ」 徳田秋聲作 東京は王子の紙漉き業の家に養子として育ったお島は男勝りの気性で、養家から強いられた結婚を嫌い披露宴から飛び出してしまうほどである。続いて缶詰屋を営む鶴さんの後妻にやられるが、浮気者の夫に腹を立てて実家に戻り、そのまま離婚してしまう。今度は自ら選んだ洋裁師の小野田と洋服店を開業し猛然と働きはじめるが、怠け者の男に振り回されてお島の細腕繁盛記はなかなかままならない――。 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「おぼろ月」 徳田秋聲作 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「朧夜物語」 徳田秋聲作 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「カナリヤ塚」 徳田秋聲作 明治三十六年八月〜九月の「少年世界」に掲載された児童向け作品である。 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「感傷的の事」 徳田秋聲作 「感傷的の事」は大正10年(1921)1月、雑誌『人間』の巻頭に発表された。これは前年11月に文壇をあげて祝された「花袋秋聲生誕五十年祝賀会」を記念した特集への寄稿であった。 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「故郷」 徳田秋聲作 本作は明治40年4月に雑誌「秀才文壇」に発表された。「故郷」という懷しく温かなイメージを持つタイトルだが、その内容は荒涼としている。主人公の若い男は生まれ育った村に戻ってくるのだが、すでに彼は昔の彼ではなく、また故郷は昔の故郷ではなかった。そしてさらなる悲劇が生ずる。 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「女装」 徳田秋聲作 明治41年1月の「女子文壇」に発表された作品である。ある年若い妻が不義の恋に陥り、その関係を継続させるために選んだのが、愛人に女性の扮装をさせ、女友達と偽って交際を続けるという奇策であった。末尾に「モオパツサンより」とあるので、19世紀フランスの文学者モーパッサンの翻案である事は明らかだが、作品の鍵となるアイディアはともかくも、皮肉な結末などいかにも秋聲好みの感じで、秋聲がモーパッサンに強い影響を受けている事を感じさせる。ちなみに「女子文壇」は文字通り明治の女性向けの投稿雑誌であるが、はたして本作を中上流家庭の子女に読ませるのが適切なのか少々心配である。 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「風呂桶」 徳田秋聲作 大正十三年八月の「改造」に発表された。秋聲のいわゆる「心境小説」の代表的短編として言及される事の多い作品である。自宅の風呂桶を買い換えるにあたっての一騒動(夫婦喧嘩)を描きながら、死へと一歩一歩近づく老年の心境を、凝縮した描写と秋聲独特の錯綜した時間処理のもとに浮かび上がらせる。作品の最後で「おれが死ぬまでに、この桶一つで好いだろうか」「すると其が段々自分の棺桶のような気がして来るのであった」という、主人公の内面で風呂桶が棺桶へとくるりと転回する様は見事である。 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「父の帰宅」 小寺菊子作 富山市出身で秋聲門下第一の女性作家・小寺(尾島)菊子の後期の代表的短編である。はじめ秋聲会の機関誌「あらくれ」昭和9年4月号に「子は反逆する」として掲載され、単行本『深夜の歌』(昭和11年)収録にあたり改題された。 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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「水の郷」 三島霜川作 高岡市出身の小説家で、徳田秋聲の親友でもあった三島霜川の初期の名編である。明治37年6月に雑誌「婦人界」に掲載された。代表作「解剖室」(明治40年)や「虚無」(同)等の廃退的作風とは異なり、本作の物語世界は田園的で甘美な空気に満ちている。 徳田秋聲記念館学芸員 大木志門 |
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(2010年3月4日〜14日
朗読で綴る北陸文学 公演パンフレットより) |
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2010朗読で綴る北陸文学 〜じっくり聞きたい郷土の文学たち〜 作品解説 |
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「照葉狂言」 泉 鏡花作 父母を持たず、伯母とともに暮らす少年貢は、閑雅な町で近所の女たちが語る昔話を聞きながら穏やかに暮らしていた。気がかりなのは幼なじみの年上の娘・雪のこと。同じく母を失った雪には継母があり、貢は雪が阿銀小銀の昔話のようにつらい思いをしているのではと案じていた。貢の町の芝居小屋では「照葉狂言」の一座が興行を打っていた。一座の女役者・小親の技芸とその美しさに魅せられた貢は、小屋に通ううち小親と近しくなる。しかし、ある晩、伯母が賭博の罪で拘引され、貢は行き場を失ってしまう。貢を引き取ろうとする雪だったが、貢は雪と継母との関係を思いやり、小親とともに一座に入って郷里を離れる。 泉鏡花記念館学芸員 穴倉玉日 |
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「義血侠血」 泉 鏡花作 高岡から石動に向かう乗合馬車と人力車の競争に巻き込まれた水芸の太夫・滝の白糸は、馭者・村越欣弥の謹厳たる様子に心惹かれる。後日、浅野川の天神橋で偶然欣弥と再会した彼女は、彼の不遇と学問への高い志を知り、学資の援助を申し出た。欣弥は白糸に「決してもう他人ではない」と誓い、法律を学ぶため上京する。以来、これまでの奔放な生き方を改め、必死に学資を稼ぐ白糸だったが、三年後の夏の夜、やっとの思いで稼いだ金を南京出刃打に奪われ、途方に暮れて兼六園をさまよい歩くうち、不意に迷い込んだ家で心ならずも強盗殺人を犯してしまう。事件の嫌疑は白糸を襲った出刃打にかかるが、白糸も参考人として法廷に呼ばれる。そこで彼女が目にしたのは、志を遂げ検事代理して法廷に現れた欣弥の姿だった。事件との関わりを否定してきた白糸だったが、欣弥の諭すような尋問に、ついに自らの罪を自白する。欣弥は白糸を殺人罪で起訴して職務を全うするが、白糸に死刑宣告が下された日、自殺する。 泉鏡花記念館学芸員 穴倉玉日 |
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「薬草取」 泉 鏡花作 ある人の病を治すため、金沢・医王山に薬草取りに入った医学生・高坂は、山中で出会った花売の女とともに四季の花が一時に咲くという美女ヶ原に向かう。幼い頃、母の病を治す赤い花を採ろうと一人医王山に分け入り、美しい娘に助けられた高坂は、娘とともに美女ヶ原を訪れて目指す薬草を手に入れた後、山賊にとらわれてしまうが、娘が山賊のもとに残ることと引き替えに帰され、病床の母に薬草を届けることができた。自分のために犠牲となった娘のことが忘れられず、再び薬草を必要とする今度ばかりは、どんな辛苦にも耐えて自身で花を手に入れたいと語る高坂。語るうちに美女ヶ原に着いた二人は、色とりどりの花を摘みはじめる。そして花籠が満ちたその時、籠は夜の闇に消え、そこには髪に赤い花を一輪挿した女の姿が。女は高坂の手に花を取らせて、思う人の病は屹度治ると告げて消えた。鏡花が当時病床にあった師尾崎紅葉に捧げたことでも知られる作品である。 泉鏡花記念館学芸員 穴倉玉日 |
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(2010年3月4日〜14日
朗読で綴る北陸文学 公演パンフレットより) |
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2010朗読で綴る北陸文学 〜じっくり聞きたい郷土の文学たち〜 作品解説 |
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「愛の詩集」 室生犀星作 大正7年1月、詩人をめざして最初に上京してから8年、念願だったはじめての詩集『愛の詩集』を刊行しました。自らが主宰する詩の結社「感情詩社」からの自費出版でした。ここにおさめられているのは、ほとんどが大正5年から6年にかけて、27、8歳のときにつくられたものです。それ以前の文語体抒情詩がリズムや美しさ、優しさを特徴としていたのとはうってかわって、口語体による自由詩の形態をとって愛や人生をうたい、感情を直情的・情熱的に表現しているのが特徴です。 室生犀星記念館学芸員 嶋田亜砂子 |
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「一茎二花の話」 室生犀星作 大正12年11月、児童文学雑誌「金の船」に発表。童話集『翡翠』に収録。金沢の木ノ新保(現金沢市本町)にあった持明院というお寺でお坊さんが子供達を集めて話をしたという設定で語られるお話です。昔中国で、沈(チエン)さんという人が、友人張(チャン)さんの元に訪れた死の使者を追い返すため、一茎二花の蓮の花を使者に食べさせて酔わせ、張さんは死を免れました。 室生犀星記念館学芸員 嶋田亜砂子 |
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王朝小曲集より 第二次世界大戦のさなかに発表された「姫たちばな」は、いわゆる王朝ものの一編です。いろいろな制限が課せられていて、作家たちは自由な執筆ができず、犀星はここでもひと工夫凝らしました。王朝のころに背景を変えることで若い男女の純愛物語を書き、命の尊さを訴えたわけです。話は、津の国の男と、和泉の国の男が、都に住まいする美女、橘に恋心をいだくところから始まります。二人はともに橘に深く心を奪われており、橘はどちらに身をまかせたらよいのか思案に暮れてしまいます。相談を受けた父は猟で決着をつけるように勧める。しかしともに弓矢の術に長けた若者は互いにゆずりません。結局、二人は互いを射殺してしまうことになるのです。橘は二つのむくろに手を合わせ、さめざめとすすりなきながら、人の命を粗末にしたくないと思う。そして父の戒めもきかず、二人の後を追って自ら命を絶ちます。 室生犀星記念館館長 笠森 勇 |
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「万花鏡」 室生犀星作 「杏の花」「桃」「さくら」「李(すもも)」の4話からなる童話で、「少女倶楽部」という雑誌に、大正15年4月に掲載されました。小さな生き物を慈しみ、よく観察し、その対象になりきることを得意とした犀星は、動物や魚を擬人化して描いた童話や小説を数多く残しましたが、そのなかでも、これは樹木を擬人化した、異色の作品です。春先に蕾を開くまでの小さな変化に色気の漂う杏の木、毛虫がきらいな桃、花のない木をうらやむ孤独なさくら、陰気な性分の李と、フィクションではない、犀星自身の観察から描き出された木の本当の姿が伝わってくるようです。 室生犀星記念館学芸員 嶋田亜砂子 |
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「蜜のあはれ」 室生犀星作 全編が会話で成り立つという大変珍しい作品です。それにもまして金魚が大切な舞台廻しをするというのは、古今東西にちょっと例がない不可思議な話です。金魚は二十歳ぐらいの女性になって、「おじさま」と愉しい時を過ごします。あれこれとねだったりして好きなことを言う金魚は、しまいには「おじさま」の子供を産みたいとまで言い出す。その上、「おじさま」の若いころの恋人で、今はもうこの世にいない女たちがやってくると、金魚は「おじさま」に代わってその心のうちに入ってゆくことができる。そんな力をもつ金魚によって「おじさま」(つまり作者犀星)の、女ひとに対する切々たる想いが語られる。 室生犀星記念館館長 笠森 勇 |
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「山の犬の話」 室生犀星作 信州の山の町から東京の家にもらってきた犬のチイがいなくなりましたが、一週間後、信州の元の家から、戻ってきたと電報が来たので、早速迎えに行きます。山育ちのチイに対する飼い主の思いやりに、心温まるお話です。 室生犀星記念館学芸員 嶋田亜砂子 |
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(2010年3月4日〜14日
朗読で綴る北陸文学 公演パンフレットより) |
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2010朗読で綴る北陸文学 〜じっくり聞きたい郷土の文学たち〜 作品解説 |
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「おんいのち」 水芦光子作 舞台は終戦間近の金沢。染物屋「染津」では長男と次男が相次いで戦死する。残る三男の乙吾は召集がかかる直前、思いを寄せる藤千代にのみ行く先を告げて姿をくらます。だが乙吾は出立しようとする所を母・鈴に見つかり、彼女の手によって「染津」の屋根裏にかくまわれたのだった。病を患った鈴は女中の素外子に乙吾の世話を託し、そのうち乙吾と素外子は関係を持つようになる。やがて鈴は死去し、乙吾は屋根裏に身を潜めたまま、終戦を迎えるのだが…。 |
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石川近代文学館 當摩英理子 |
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「風の盆恋歌」 高橋 治作 学生時代に仲間と訪れた風の盆の一夜を境に、互いに恋心を抱きつつも身を引いた都築とえり子。それから二十数年後それぞれに家庭を持った二人はパリで再会、当時の誤解が解け恋慕の思いが甦る。えり子は都築に「一度きりでいいから、あなたと風の盆に行ってみたい。私を風の盆に連れて行って下さい」との言葉を残す。更に数年の時が流れ、都築がえり子を待ち風の盆の間だけを過ごす八尾の家にえり子はやって来る。二人は遠回りした時間を取り戻すかのように風の盆で愛し合う。しかし、三度目の逢瀬となる風の盆の初日、難病に冒された都築はおわらの調べの聞こえる中で息絶え、駆けつけてきたえり子も都築の後を追う・・・。 |
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石川近代文学館 松山千津 |
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「驟雨」 井上 靖作 主人公である「私」は小学校時代、毎年夏休みを親元を離れ伊豆半島の別荘地でもある漁村で過ごしていた。高学年になり避暑に訪れる美貌の光橋夫人と親交を持つが彼女の夫には子供心に反感を覚える。夫人不在の折に光橋氏が天真爛漫な若い女と過ごしていたことを光橋夫人に詰問され、「私」は初めて男女の愛憎の一端にふれ、大人の世界を垣間見る。中学生になった「私」は光橋氏が事業に失敗、自殺し夫人の行方も知れないと知る。「私」は二年前の雷雨の日、夫人が「女」という魔性を一瞬晒すことによって、その場にいた三人がそれぞれに二度と取り戻せない何かを失ってしまっていたのだと気付き、自らの少年時代が終わってしまったことを感じる。 |
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石川近代文学館 奥田知穂 |
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(1990年5月8日発行
鏡花劇場公演パンフレット「松田章一の老年物三部作」より) |
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2010朗読で綴る北陸文学 〜じっくり聞きたい郷土の文学たち〜 作品解説 |
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「ま哀しき恋 〜暁鳥敏と原谷とよ〜」 松田章一作 この物語の暁烏敏と原谷とよと妻総の恋文のごく一部は暁鳥自身によって公開されています。没後七年『暁鳥敏全集』編集の折、その一部を伝記作製のため公開しました。その後、拙著『暁鳥敏―世と共に世を超えん―』でその半ばを使用しました。今晩の輪眞知子さんの朗読は、この著作の第七章「あるが儘の魂」から構成したものです。 |
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松田章一 |
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「紅蓮物語」 森山 啓作 奔流、崩壊、かささぎの橋の章 ―あらすじ― 二万坪以上の二重堀があり、水城、芦城とも呼ばれた小松城下の富商、大松屋八兵衛は真の跡取りがなく、妾の萩に産ませた春野に、親子の名乗りをする機会を伺っていた。春野はずっと百姓に預けられて育ってきた。不作のその秋、八兵衛は決心する。春野を温泉に連れ出して親子の名乗りをしようと。湯治で山中温泉にいる内儀の八重の見舞いを兼ねて、春野を連れ出した。春野らが温泉に出かけて二日後、春野の恋人である河内福馬が、半年ぶりに出奔先の大坂から戻ってきて、大松屋の暖簾をくぐった。福馬は小松城下ではお尋ね者である。すぐに番頭の熊次郎から番所に通報され、福馬は春野に会えぬまま原村に逃れた。春野の消息は熊次郎から聞いた。福馬はそのまま山中温泉へ向かう。手取峡谷沿いの道を急いだ。道すがら、福馬は大飢饉の惨状を目の当りにして心を痛めた。小原村近く、笠取峠で少年滝三郎と知り合う。彼は春野のいる温泉宿の奉公人だった。福馬は腹痛を訴える滝三郎を負ぶり温泉宿の近くに来た。春野らが小松に帰る前日だった。滝三郎は福馬の伝言を持って、春野の元にやってくる。春野らは未練の湯浴みをしている最中。漸く総湯から出た春野に、福馬の伝言が届けられた。福馬様が来た!点火した火薬の様な思いを抱いて、春野はかささぎの橋を渡った。 森松和風 |
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「乳の匂ひ」 加能作次郎作 「乳の匂ひ」は、彼のいわゆる京都物と呼ばれる作品群の一つである。京都に出て、叔父の家に身を寄せていた頃の生活や見聞を描いたもので、「世の中へ」などに見えていた叔父の養女・お信さんにまつわる少年の懐かしい思い出が綴られたものである。自伝的な私小説とはいいながら、五十何歳にもなって、少年の日々を懐かしむ視点から発想されたものだけに、多分に美化されており、そうした傾向は、情味あふれるお信さんのやさしい人柄や主人公に対する好意的な態度を写すときに必然的に溢れ出ており、勢い創作化の度合いが濃くなっている。創作力の凝集を思わせる、濃度の勝った作品で、その構成上の技法も老熟の域に達し、ドラマチックな場面を幾重にも展開させている点をとっても、彼の生涯にわたる全作品中でも、屈指の名作、傑作と呼んでよいだろう。《参考文献》「乳の匂ひ」考 坂本政親 一九七三年(福井大学教育学部紀要二三号)より 志賀町立富来図書館 金井広美 |
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(2010年3月4日〜14日
朗読で綴る北陸文学 公演パンフレットより) |
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2010朗読で綴る北陸文学 〜じっくり聞きたい郷土の文学たち〜 作品解説 |
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「主計町あかり坂」 五木寛之作 平成20年4月1日発行「オール讀物」四月号に発表される。金沢の植木職人であった高木庄司は「笛を吹いとる高木庄司です」と名乗るほど、本業よりも笛に夢中になる祭り囃子の笛の名手であった。その娘高木凜も父庄司に手ほどきを受け自らも笛を吹くようになる。しかし不幸なことに凜は両親の急死に遭遇してしまい、凜は報道会社に勤務するようになり番組ディレクターである黒江という青年と恋に落ちて行く。やがて若い男女の恋は破局へ向かい黒江は自らの夢を求め、凜は暗い想い出を忘れるために金沢主計町で芸妓の道を志し、冬の浅野川に笛の音を響かせながら自立した女性へと成長して行くのであった。 朗読小屋 浅野川倶楽部 表川なおき |
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「卯辰」寺本親平作 平成17年2月20日「遠州豆本別冊短編小説集10」に発表後、「2005年上半期同人雑誌優秀作」として平成17年6月号の「文學界」に所載される。この作品により著者は第33回(平成17年度)泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞している。物語は「いまだに金銭の面で助けられている情けない還暦を過ぎた」巨漢の息子が、あらん限りの毒舌を振りまく米寿を過ぎた老母を卯辰山の花見見物に連れて行った時の話なのだが、読者は、咲き誇る花を目当てに集まる人群への著者の洞察に目を見張ることになるだろう。 朗読小屋 浅野川倶楽部 表川なおき |
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金沢城下町細工人譚「かざりや清次」 剣町柳一郎 平成18年(2006年)7月30日蒼文舎より発表される。金沢城下町細工人譚で描かれる「かざりや清次」は白銀細工師、「針巻師勇三」は加賀毛針をつくる者、「茜龍の与助」は加賀絵紋師、「念仏者勘七」は箔師、そして「椿師と呼ばれた男」は西王母の椿をつくった侍の話であり、御一新の影響下、城下町金沢の細工人たちの生き様を描く時代作品譚である。この作品譚により著者は第34回(平成18年度)泉鏡花記念金沢市民文学賞を受賞する。 朗読小屋 浅野川倶楽部 表川なおき |
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井上雪作「廓のおんな」より「梅ノ橋」 昭和55年(1980年)朝日新聞社より発表され、大宅壮一ノンフィクション賞佳作を受賞する。この作品は尋常小学校2年生から城下町金沢の「東の廓」で生き、北陸一の名妓と呼ばれた「きぬ」の半生に取材し記録されたノンフィクション作品である。 |
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朗読小屋 浅野川倶楽部 表川なおき |
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水芦光子作 詩集「雪かと思ふ」 |
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朗読小屋 浅野川倶楽部 表川なおき |
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(2010年3月4日〜14日
朗読で綴る北陸文学 公演パンフレットより) |
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