編集直記  
     
   猛暑到来。7月下旬から8月下旬の約1ヶ月間の金土日を中心に「夢がたり十八夜」は開催された。公演出演者は1期生部員50数名。演目は全11演目。日替わりで演目と出演者が変わる。「どんな公演なんだ?」という問い合わせのお客様の疑問の声に、事細かくご説明申し上げることが、この1ヶ月の私の日課であった。私達は幸せ者である。たくさんのご支援、ご指導を賜り、報道各社から多数の取材を受け、この1年4ヶ月の間に新聞紙面、雑誌等に掲載された回数は40数回に及ぶ。感謝感激の極みである。心より命より熱く御礼申し上げたいと思います。

 浅野川界隈で朗読小屋を運営するには、さまざまな困難を乗り越えなければならない。その困難の大部分を占める騒音には特に神経をすり減らすことが多い。バスのクラクション音、バイクのマフラー音、乗用車とダンプのイライラ警笛、救急車のサイレン音、自転車のキーキー音、宅急便の右左折アピール音、石焼き芋屋の呼び寄せ音、これらは全て朗読小屋の会場に惜しみなく鳴り響くのである。藩政時代はどのような騒音が起こっていたのだろう。もちろん現代のような車社会ではないので、クラクション音、バイク音、サイレン音などは無かったであろう。バスは馬車に、タクシーは駕籠か人力車、消防車は火消し車そして人足の掛け声、宅急便は飛脚。そういえば市内を路面電車が走っていた時代もあり、橋場町から大樋町あたりまでの路線もあったのだ。時代は変わり、文化が変わり、社会が変わり、歯止めが効かなくなってしまった現代。浅野川界隈を散策していると路地から古き良き時代を懐かしむ声を耳にすることがしばしばある。この界隈は古き町並みを残し、足を踏み入れた人々を何故か懐かしい感覚に引き込む。現代人の無意識な感覚に忍び込む暖かく妖しい雰囲気がある。

 浅野川界隈は河原芝居の盛んな地域であった。春・夏公演パンフレットに文芸部が取材し作成した界隈の河原芝居についての記述がある。読んでいない人はいないと思うが、もし読んでいない人があったら、パンフレットをご参照頂くか、夏公演ページの文芸部コーナーへお立ち寄り頂きたい。お隣の和田歯科医院さんが第4福助座(旧:弁天座、いろは座)であったり、丸西さん付近に一九席があったり、旧下新町(現:尾張町2丁目)の通りには新富座があったり寄席があったり、主計町、東山には演舞場、桜馬場芝居(戒座)、並木町には稲荷座(のちの尾山倶楽部)など、数えるだけでも気持ちが和んでくる。

 部員の宣伝、チケット販売による十八夜総観客動員数は600名という予想を遙かに超える結果となった。600名ちょうどというのは大変珍しいが、正真正銘600名ちょうどであった。部員らの計り知れない情熱、そしてお客様のご期待をひしひしと感じ、このような界隈に朗読小屋が出現したことは運命であったのだと、2006年9月、私は確信した。朗読小屋 浅野川倶楽部はどこまで成長して行くのだろう。私は期待と不安を両輪にここまで走ってきた。成長の後は成熟を待つことになる。

 私には80歳の祖父がいる。昔、高知で小学校の校長をしていたらしく国語が専門であった。私はその祖父に幼少の頃、漢語のことわざのようなものを書いた半紙を手渡された。その半紙は無くしてしまったが確かこう書いてあったと思う。

「少面学則 壮面有為 壮面学則 老面有為 老面学則 尚死不衰」

 確かどころか自身の未熟な解釈のもと脚色したものであることが一目瞭然。私は「幼年期の学問は壮年になった時の為、壮年期の学問は老年になった時の為、老年期の学問は死して尚衰えず」と解釈致しました。ご存じの方は、どうかご教授をお願い致します。その頃、可愛い少年であった私は、祖父にこの漢語の意味を何度も尋ねた。しかし祖父は自分で考えなさいの一点張りで教えてくれませんでした。私はその半紙を学習机の引き出しにしまってしまい、ついにはそれっきりとなってしまいました。祖父からのメッセージである漢語の「少面学則」の頃、私は勉強嫌いなサッカー少年となっていました。「壮面学則」の壮年は2006年9月、今の今、壮年真っ直中であるが、祖父は今の私を見て何と言うだろう。何だか「壮面学則」が重くのし掛かって来るようだ。まだ祖父も健在なので近々訪ねて教えを乞わなければと思う。でも本当は前もって分かっておきたいので、ご存じの方、宜しくお願い致します。

 公演期間中に、キャリア組を改め「時重組(ときえぐみ)」という呼び名を発表した。文字通り時を重ねた組という意味で、若手を一纏めに呼ぶ為の「若手組」に対抗する新しい呼び名である。私は陰で轟々と非難の声が起こっていることも知らず「トキエって夢二に出てくる女性の名前のようで可愛いじゃん」と、女心が分からない鈍感な男であることを改めて証明したのだった。しかしながら「年を重ねた」と言っているのではなく「時を重ねた」と言っているはずなので、私なりに心を砕いて配慮をした結果であったことをここに報告しておきたいと思う。

 私の記憶と解釈が確かであるならば「老面学則 尚死不衰」という漢語は、時重組改めトキエ組へのメッセージ、「壮面学則 老面有為」は若手組へのメッセージとなるのではないかと考える。よしここからが本題だ。前置きが長く本文が短いのが私の筆癖であることは前述の通りであるが、郷土作家作品の朗読を行っている我が朗読小屋 浅野川倶楽部所属部員は、もはや朗読の稽古を行っているだけではなく、文に学ぶ「文学」に感性を磨き、舞台の「流儀」に人としての礼節を学ぶという人間修行を行っているのである。若輩の私にはまだまだ長い修行が待ち構えているが、トキエ組は決して修行が終わった訳ではなく、自身を律してそれぞれの課題に取り組んで頂ければと私は切に願っている。私には、良いバイト先を探し朗読小屋を立派に存続させて行く為に何が必要かを考えて行くことや、春公演に向けての作品選定を行うこと、劇団の台本執筆と、華やかでチャーミングな所属部員の何処から何処までをトキエ組として認定すべきか自問自答すること等々、早急に取り組むべき課題は山積みである。
 
 
2006年・夏
 
     

 

 
     
  夢がたり十九夜 朗読「白い兄弟」  
   おお〜い、だい!ホームページ見てくれてるか〜!よしよし見ているならそれでいい。一心不乱に文化活動を行っている格好いいお兄ちゃんを持って大介は幸せ者だ。ゲームばっかりしていないで、パパに言って、あさのがわくらぶのホームページを毎日見せてもらいなさい!あさのがわくらぶでは、たくさんの素敵なお姉さん達が朗読のお勉強を一生懸命やっているんだぞ。だいもお姉さん達を見習って一生懸命「文学の本」を読みなさい。宿題は終わったか?背筋をちゃんと伸ばして猫背にならないように気をつけなさい。お兄ちゃんみたいに腰が痛くなるぞ。わかったか?お兄ちゃんは一匹オオカミになってしまったよ。友達はたくさん作るんだぞ。がんばれがんばれだいちゃん!がんばれがんばれだいちゃん!パチパチパチパチ・・・。

 貴重なお時間です。

 度々、朗読小屋へお邪魔致しております愛弟だいすけです。一年生夏には、トウモロコシ栽培ほか草むしりを経験し、自分が食べるものを自分で作ることの喜びを学びました。五年後の夏には身長が1.5倍も伸びてびっくり。ちょっと緊張したけど、夢がたり十九夜の「白い兄弟」をイケメン俳優の実兄と共に努めました。いつも厳しい面持ちの私も愛弟の前ではにんまり。故郷を捨て、家族を捨て、恋人を捨て、愛人を捨て、一心に地域演劇活動に身を投じてきたこんな私にも肉親を想う麗しき心が残っていたのだと、愛弟大介に会う度に気付かされ、何だか恥ずかしい心持ちになるこれ不思議。
 
 
 
 

五年後
 
 
小学一年生夏
 
小学六年生夏
 
 
 
 
 
 
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朗読小屋 浅野川倶楽部 〒920-0902 金沢市尾張町2-14-21
TEL 076(261)0837 / FAX 076(261)8999 E-mail Asanogawa@club.email.ne.jp

制作 表川なおき
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